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長瀬土建《SDGsのすごい会社:掲載企業》

※この特集では、拙稿「SDGsのすごい会社」では少ししか触れることができなかった、長瀬土建社長、長瀬雅彦さんとの出会いの経緯、そして、飛騨高山の森で長瀬さんにご案内いただいた美しくもマニアックな森の道ツアーの様子をご紹介しています。(冨田)

長瀬土建、長瀬社長と歩く「森を育む『すごい道』ツアー」

本稿の最後に、長瀬社長と歩く「森を育む『すごい道』ツアー」本編の動画を掲載しています。

ついては、オープニング動画として、まずは、長瀬土建さんが手掛けた「森を育むすごい道」の走り心地からご紹介させてください。凸凹な林道とは違って、未舗装でもストレスがありません。美しい森の中を、長瀬さんの車を追って、軽自動車のレンタカーで進みます。

出会いはドイツの池田憲昭さんから

飛騨高山の地で、ドイツ式、森の道づくりを行われている長瀬土建さんの存在を知ったのは、2020年5月から夏にかけて、ドイツ在住の森林コンサルタント、池田憲昭さんのオンラインセミナーを受講したことがきっかけでした。

セミナーの内容は以下の通り。そこには森に全方位からアプローチするプログラムが、ずらりと並んでいました。

サステイナブルは気くばり - 森から建物まで‐ 企画・講師: 池田憲昭さま
①持続可能な多様性! - 多方面へ「気配り」する森林業
②森づくりは道づくり - 持続可能で多機能な森林業を可能にする道インフラ
③人も森も守る! - 森林作業の安全と土壌を保護する作業
④木材の多様な地産地消 - 多様性のある地域木材産業が地域を国を豊かにする
⑤サステイナブルな家づくり - 自然素材を活かしたシンプルな健康省エネ建築
⑥森林浴 Waldbaden
⑦人間が森から学ぶべき共生の原則 Wood Wide Web
⑧ドイツ森林官とトーク - 森の守人、子供達の憧れの職業<特別企画>
⑨ドイツの森の幼稚園
⑩人の命と資産を守るグリーンインフラとしての森林
⑪土壌は生命の源

池田さんのお話は、専門的でありながらも大変わかりやすく、単に森が好き、家が好き、DIYが好きという素人の私でも、毎回ワクワクと素晴らしい学びをいただけるものでした。

「サステナブル」という言葉は、300年前に、ドイツの森で生まれたこと。ドイツでは1970年代、つまり、50年前から、皆伐(森の木を全部切ってしまうこと)が法律で禁止されていること。代わりに、少しずつ間伐をしながら、土壌に落ちた種子から、また次の世代の木が育っていく、天然更新の森が育くまれていることなどを教えて下さいました。
天然更新の森は、多様な生物を育み、土壌を守り、樹木の成長も促進させ、強固な地盤を作ります。結果、豪雨の際は、天然のダムとなって私たちの国土を守ります。また、人々に憩いやレクリエーションの場も提供してくれます。

そんな多機能な森では、林業以外の事業も行えることから、池田さんは「森林業」という言葉を大切にされていました。

また、池田さんによれば、日本の森は、ドイツの森と比べ物にならないほどに木の成長速度が速く、土壌も豊かとのこと。その上で、日本よりも50年先に進んでいるというドイツの森の育み方や、周辺産業の在り方を教えて下さるため、回を重ねるごとに、日本の森の可能性に心が躍っていきました。

中でも一番腹落ちしたのは、「森づくりは道づくりからはじまる」というお話でした。

維持コストが安く、長持ちして崩れない、生態系にも配慮した多機能な道が、施業を効率よく行えるように適切な密度で森に敷設されていれば、森に入りやすくなる。そうすれば、施業コストは下がり、適切な手入れによって森は豊かに育まれ、儲かる森林業が実現する。すなわち、持続可能になるというのです。
その証拠に、ドイツでは、森林業に関する補助金は、道づくりにしか出ないそうです。道というインフラさえしっかりしていれば、産業として成立するからとのことでした。

そんな池田さんのお話にの中に、日本での適用事例として、長瀬土建さんが手掛けられる飛騨高山の森の話が、幾度となく登場しました。

日本でも素晴らしい森づくりをされている方は大勢いらっしゃると思いましたが、要となる「道づくり」の専門家である「土木屋」さんが、日本で初めて林業に参入したというお話は大変興味深いものでした。そして、専門家だからこそ、生態系にも配慮した環境再生型のドイツの道を忠実に再現することができ、その上で儲かる林業を実現されているというお話には、業界の壁を超えておこるシナジーに大きな可能性を感じました。

これは、長瀬土建さんが手掛けられた、森の道の写真です。それも、令和2年7月の高山豪雨で、特別警戒警報が出された日の翌日の写真です。崩れるどころか、水たまり一つない、なんと美しい道なのでしょう。

一目でいいから、この道を見てみたい。

『SDGsのすごい会社』のお話しをいただいたのは、ちょうどそんなタイミングでした。すぐに池田さんにご相談し、長瀬さんに取材の申込みをさせていただきました。

林業専用道を作る

森の中を通る道には、様々な道があります。皆様も馴染みがあるのは「林道」ではないでしょうか。
長瀬さんが、林業に進出するにあたって新たに手掛け始めたのは、林道よりも法律上は格下の道、「林業専用道」と「森林作業道」という道です。

多機能で「森を育むすごい道」として、拙稿でも、本稿でも紹介しているのが、ドイツの道づくりの技術で作られた、この林業専用道になります。

林業専用道は、森で木を伐採するための大型重機や、木材を運搬するための大型トラックが往来する道となります。ドイツでは、森の道が市場の役割も果たし、道端に並べてある木を、バイヤーが買いに来るのだといいます。
この林業専用道の他に、小型トラック等でより森の深くまで入り込めるように作られた道が森林作業道という道です。

この2つの道が、森の中を網の目のように走っています。そして、こういった森林内の道のことを、路網と呼びます。路網の密度が高ければ、伐採した木をすぐに道路に運び出せるので、施業コストは抑えられます。しかし、道路ばかりでは森の面積が減り、たくさんの木を育てることができません。最適な路網密度や、どこに道を通すのかは、林業を行う上で重要な鍵となります。

ドイツ式の森の道とは

長瀬土建さんが、林業専用道を作るのにあたって取り入れたドイツ式の森の道は、森を何百年と育んでいくことを想定して作られた、非常に合理的な道となっています。拙稿でも詳しく書いていますが、何百年と崩れず、メンテナンスコストが極限まで抑えられた道は、水のマネジメントが出来ている道です。大量の水が道の上を走ったり、一か所に不自然に集まることで、道は崩れていくため、それが起こらないように水をマネージするのです。

ポイントは、「水を集めない」、「水の勢いを弱める」、「速やかに排水する」とのこと。これを実現するため、路面の形状は屋根型で、道の両脇に排水を促します。山側の水は、側溝を流れ、30から40メートル置きに作られた集水桝で一旦勢いを弱め、道の下を通る暗渠で、谷側に流します。

また、コンクリートの使用は最小限とし、そこにある自然を使ったグリーンインフラを基本とします。暗渠の周辺はビオトープを形成するよう配慮され、いきものの往来を極力邪魔しないように設計されます。

作ってみなければわかならい

高山の森に囲まれて育った長瀬さんは、昔から森が大好きでした。ただ、家業である土木屋として、長年、「土木は環境破壊」という葛藤と向き合ってきたといいます。(土木屋が林業に進出する経緯は、拙稿にて詳しくご紹介しています。)

高山の地で会った長瀬さんは、森の植物図鑑を片手に、あの木がなに、この木がなんだと、ネイチャーガイドのように森を案内してくださる方でした。森の中で仕事をされているのに、週末ごとに周辺の森にトレッキングに行かれるような、本物の森好きです。

そして、もちろん、ご自分が作った道へのこだわりと情熱は、半端ありませんでした。

2010年、林業に参入することを決めたのち、ドイツを含む欧州の林業先進地域の森を視察して、池田さんにも出会われた長瀬さん。その後、ドイツ式の道を敷設し、ドイツの思想で森づくりを行おうとしたところ、周囲からは「日本ではできない」、「欧州とは地形が違う」、「雨量が違う」、という声があがったといいます。尚、その時点で、北海道の鶴居村の森にも、池田さんのチームが先行して作っていたドイツ式の道がありました。しかしこれに対しても「あれは北海道だ」、「本州とは地形が違う」という声ばかりだったといいます。長瀬さんは、「誰も文句ばかりでやらない。ならばまずは自分が完璧に作ってみようじゃないか。判断はそれからだ」、とフロンティアに踏み出します。

ドイツフォレスターからの直接指導

長瀬土建は、もともと土木屋ですから、道づくりは本業です。ただ今回は、ドイツの森の思想にのっとって、環境再生型の林業専用道をはじめて作ります。

まずは完璧にドイツに習おうと、高山の地で、池田さんの通訳を介してドイツのフォレスターから直接指導を受けました。道の作り方だけでなく、森づくりのために、将来残す木(将来木)の選び方や、間伐の仕方など、林業に関わる技術的なことも学びました。こうして2011年、最初のドイツ式の道、461メートルが高山の森に完成しました。

以降、フォレスターが帰国されたあとも、長瀬さんは習ったことをベースに、道を延長していきます。

しかし、また来日したフォレスターに見てもらうと、「ここはコンクリートを使わなくてもいいところだ。コンクリートがあっては、堆積物があったときに、パワーショベルで効率的に掻き出せない」、「ここは水の流れをもっと想定しないと、枝や土砂が詰まってしまう」などと、指導を受けることになります。

そのたびごとに、次に手掛ける道が、次に手掛ける排水設備が、よりメンテナンスしやすく、長持ちし、生態系にも優しく、かつ、日本の山に合ったものになっていきました。

 

長瀬土建、長瀬社長と歩く「森を育む『すごい道』ツアー」

さて、前置きがだいぶ長くなりましたが、ここまで説明してきたところで、ようやく長瀬社長と歩く「森を育む『すごい道』ツアー」のご案内です。
高山を訪問して、何がおもしろかったといえば、この10年間の長瀬さんのチャレンジを、順を追って見ながら、説明を伺うことができたことです。

「このときは、まだわかっていなかったんだ」、「ようやく、水が渦をまくスペースを作ることが大切だとわかったんだ」、と、失敗からの発見を、なんともうれしそうに話して下さる長瀬さん。長瀬さんがどれだけ仕事を楽しまれているか伝わり、こちらもおもしろくて、どんどんと前のめりになりました。

最初は4本、その後も少しずつアップしていく予定です。

※今回は、ドイツ、ドレスデン工科大学で森林科学を学び、東京のベンチャー「森未来」でインターン中というドイツ人のクリスチャンさん、そしてドイツ、シュトゥッガルトで林業の職業訓練を受け、林業作業士の資格を取得された三井物産フォレストの伊藤史彦さん(日本で唯一のドイツの林業作業士保有者)とご一緒させていただきました。

いかがでしょうか。かなりマニアックですが、お話を聞けば、理にかなっていることばかりです。
そして、森の道づくりを通じて、自然と共生する、新しいあり方への気づきをたくさんいただきます。

「森を育むすごい道」の広がりとともに、持続可能な森林業が私たちの国土や生態系を守り続け、1000年後の子どもたちにも豊かな森が届くことを願っています。

ここには、拙稿に書ききれなかったことを中心にご紹介しました。
長瀬さんの想いを、是非、『SDGsのすごい会社』を手に取って、確認してみてください。

 


弊社では、本を読んでいなくても大丈夫!の<読書会>を開催しています。<読書会>では、長瀬土建さんのストーリーをご紹介しながら、参加者どうしで対話を行っていただきます。新たな発想を得たい企業の皆様、ワークショップとして是非ご活用下さい。オンライン・オフライン双方で対応可能です。(長瀬さんも参加いただけるかも!?)

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