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特集
こくみん共済 coop《SDGsのすごい会社:掲載企業》
※この特集では、拙稿「SDGsのすごい会社」では書ききれなかった、日本の協同組合の原点についてご紹介します。そこには、ガンジー、シュヴァイツアーと並んで「二十世紀の三大聖人」と呼ばれた、一人の日本人がいました。(冨田)
「こくみん共済 coop」の原点をたどる
生活協同組合を知っていますか?
突然ですが、みなさま、生活協同組合について、どのくらいご存知ですか?
一番馴染みがあるのは、食材や日用品を自宅まで届けてくれる、購買型の生活協同組合でしょうか。私も小さい頃に母が生協に入っていたことを皮切りに、引っ越すたびにいろいろな生協にお世話になってきました。ただ白状すると、つい最近まで理念を理解せず、「少しよいものを扱う宅配」くらいにしか思っていませんでした。
ところが数年前、自身が加入している生協の実店舗で、恥ずかしい体験をして目が覚めます。自宅から少し離れたところにある実店舗をはじめて利用した際、レジの方に、「うちの近くにもお店を作って下さい」とお客様気分で話しかけてしまったのです。すると、「広く呼びかけたら、できるかもしれませんよ」と返され、そのときはじめて、生協は、組合員の組合員による自主運営組織だったことに気が付きます。実店舗は、組合員どうしが呼びかけ合い、みんなで設置し、みんなで運営するお店だったのです。穴があったら入りたい気持ちになりました。生活協同組合において、利用者は「顧客」ではなく、運営者でもあり、出資者でもあるのです。
「こくみん共済 coop」さんとの出会い
今回、「SDGsのすごい会社」で取材させていただいた「こくみん共済 coop」さんも、同じ生活協同組合です。
でも、扱うのは食材や日用品ではありません。病気や事故や災害にあったときの保障を扱っています。一般的には、購買型の生活協同組合に対して、共済型の生活協同組合と言われたりします。「こくみん共済 coop」さんは、ご自身のことを、いざというときの安心を届ける「保障の生協」だとおっしゃいます。
(2019年6月から、「全労済」は、「こくみん共済 coop」へと愛称を変更しました。キャラクターのピットくんとそのファミリー、最近テレビでよく見かけますね!)
ただ、お恥ずかしながら「共済」という商品に対しても、つい最近までは「少し安い保険」という認識しか持っていませんでした。そして、高齢の両親のために火災保険を探す際も、理念を理解せず、お手頃だからという理由で「こくみん共済 coop」の「住まいる共済」を選び、加入手続きを行っていました。
そんな「こくみん共済 coop」さんにて、組織を運営される側の方、いわゆる「中の人」とはじめてお会いしたのは、2019年初夏のことでした。そしてその年の秋から、SDGsを組織内に浸透させるお手伝いを、本格的にさせていただくことになったのです。
秋までの間、いまいちど「生協って何?」、そして「共済と保険ってどう違うの?」と、一通り調べました。とはいえ、民間企業でしか働いてきたことがない身、なんとなくわかるけれどピンと来ません。
「協同組合の父」賀川豊彦氏という原点
そのような中、日本の「協同組合の父」、と呼ばれる賀川豊彦氏の存在を知ります。
生活協同組合も、農業協同組合も、その名の通り、すべて「協同組合」です。日本協同組合連携機構(JCA)のサイトによると、「協同組合は、共通の目的を持った人同士が自発的に集まって作る経済組織です。出資金という形で自分たちで元手を出し合い、組合員となって事業を利用し、組合員として運営にかかわっています」とあります。つまり、先の生協での体験でも書いたように、協同組合は、組合員の、組合員による、組合員のための、非営利の自主運営組織です。生活協同組合は、「消費生活者」が集まって作られた組織です。農業協同組合は、「農業従事者」が集まって作られた組織となります。
日本の協同組合の元祖、賀川豊彦氏とは、どのような人物だったのでしょうか。
賀川は1888年(明治21年)、神戸に生まれ、「貧民街の聖者」として神戸のスラム街で慈善活動を行います。しかし、ボランティアでは貧困を解消できないことに気が付き、貧困を真に救済する社会の仕組みを学びに、アメリカはプリンストン大学に留学します。そして帰国後の1921年、第一次世界大戦終結後の不況期にあって、日本で最初の生活協同組合、「神戸購買組合」と「灘購買組合」を設立します。当時、労働者は、給与に対して高価となってしまった生活必需品を手に入れられずに、困窮していました。そんな中、賀川は、神戸の人々と共に資金を出し合って日用品を購買する仕組みをつくり、お互いに生活を守り合う<生活協同組合>を実現したのです。
この仕組みがうまくいったことを受け、貧困や困りごとの中にあってもみんなで助け合って協同すれば抜け出せるのだということを、賀川は全国で説いてまわります。その後も関東大震災の救済や、日本農民組合の設立など、精力的に活動を展開し、1920年代後半からはキリスト教の布教活動にも重きを置いていきました。
賀川は、日本よりも世界での知名度が高く、海外では「二十世紀の三大聖人」として「ガンジー」、「シュヴァイツアー」と並んで「カガワ」の名が挙がっていたといいます。さらに、「死線を越えて」というベストセラーの自伝的小説を書いた文学者でもあり、ノーベル文学賞とノーベル平和賞の候補に幾度もあがった人物でもあるというのです。
奇せずしてこの賀川豊彦氏が、当方の妹が卒業した東京世田谷にあるキリスト教系幼稚園、松沢幼稚園の創設者だったと知った時には、世界の狭さに驚きました。さらに、今やその教会と幼稚園には「賀川豊彦記念・松沢資料館」まで併設されているというではありませんか。これは行くしかありません。
2019年8月3日、猛暑の中、小さい頃に住んでいた懐かしの上北沢駅に降り立ちました。そして小さな資料館にて、日本の協同組合の原点を発見しました。以下、掲示パネルにあった文章を引用します。
「愛と協同による協同組合運動」
協同組合の使命は、搾取なき社会と資本集中なき世界の実現にあると賀川は説いた。前者は英国ロッチデール消費者組合が始めた利益払い戻し制度により、今日の協同組合運動の原動力となった。また後者はドイツのライファイゼン信用組合による富の公平な分配となった。これらの使命が結合すれば、搾取や資本の集積や、階級闘争や失業のない理想社会が可能だと賀川は考えていた。その社会は、愛と協同による相互扶助組織としての協同組合運動で実現される。そこに愛の良心運動と考えた賀川の協同組合運動があった。
「搾取なき社会と資本集中なき世界の実現」
この言葉を読んだとき、協同組合の原点を知ると同時に、それがどれだけSDGs達成に貢献しうる理念であるかに、深く感銘を受けました。
実際、SDGsのアジェンダにも、ゴール達成に向けた実施手段として「我々は、小規模企業から多国籍企業、協同組合、市民社会組織や慈善団体等多岐にわたる民間部門が新アジェンダの実施における役割を有することを認知する」と記載されており、中でも協同組合は、SDGsに包括的に取り組める仕組みとして、高い期待を寄せられています。さらに2016年には、ユネスコが、「共通の利益の実現のために協同組合を組織する思想と実践」を、無形文化遺産に登録しています。
これらは、イギリスやドイツから広がった協同組合、そして、賀川の説く日本の協同組合の原点が、今、国際社会から求められている証拠と言えるでしょう。
加えて、賀川の発する「相互扶助組織」という言葉からも、やはり「助け合い」がその運動の原点にあるのだと感じとることができます。それは、神戸の購買組合の成り立ちからみても、明らかです。
現在、日本にはのべ1億人を超える、協同組合の組合員がいます。また、購買生協の世帯加入率は、4割近くになっています。これを読みながら、ご自身も組合員だったと思い出されている方もいるかもしれません。私たちの多くは、すでに、巨大な助け合い組織の一員となっているのです。
おわりに
さて、ここまで知ってから「こくみん共済 coop」さんに目を向けてみると、スローガンの「たすけあいの輪をむすぶ」という言葉が、なんだかもう一段深いレベルで、心に響いてこないでしょうか。
『SDGsのすごい会社』では、「こくみん共済 coop」の﨑田専務理事に、SDGsの理念を体現しているような組織が実際には何を考え、何を思って運営されているのか、そして、どんな未来を創りたいと思われているのか、詳しくお話を伺いました。もちろん、協同組合についても、そして、共済と保険の違いについても、丁寧にご説明をいただいています。
是非、お手にとって、たすけあいの神髄を確認してみてください。
<「こくみん共済 coop」さんの「たすけあい」の世界観がわかるスペシャルページたち>
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