浄水場見学~緩速ろ過/生物浄化法ってなあに?~
【緩速ろ過/生物浄化法ってなあに?】
~我が家の井戸水浄化のために、浄水場を見学してきました!~
長野県上田市の8万人に水道水を提供する、染谷浄水場を見学してきました。建設ちょうど100年の浄水場。
水道が通っておらず、井戸水しかない我が家。房総半島特有の井戸水の高い硬度を下げる方法を探して三千里。
家の井戸水をろ過するのに、浄水場の見学だなんて、なんともスケールの大きなお話しです(笑)。
現在、我が家の飲み水は、井戸水を逆浸透膜浄水機に通して作っています。しかし、これを家全体の水に適用しようと思うと、コストがものすごいことになります(以前はいけると思っていましたが、計算間違いをしていました><)。
ちなみに、日本の湧き水、飲み水は、基本が「軟水」。よって日本の家電は軟水がベースで作られ、水の硬度が高いと、洗濯機なども壊れやすいそう。(実際、先日8年使った洗濯機が壊れました。ここに引っ越してきて1年後の故障。寿命なのか、高い硬度のせいなのかは微妙な年数。)そして、キッチンも、窓ガラスも、車も、今の水で掃除すると白いスケールだらけになるので、なんとしても硬度を下げたい。
そんな中、我が家のスーパー大工さん、小川さんから「緩速ろ過」という方法を教えていただきました。
緩速ろ過とは、別名「生物浄化法」といい、太陽の下、自然発生する藻や微生物によって水中の汚れを分解していくという、自然界の湧き水や、川の水が清らかになる原理を使った、昔ながらの浄化法のこと。昔から、日本も世界も、その浄水場の多くは、緩速ろ過で行われていました。しかし、薬品(凝集剤の利用や塩素消毒を繰り返す)を使った急速ろ過の方が効率がいいと、日本では急速濾過の方が普及し、あとからオープンするのは、急速ろ過の施設ばかり。今、急速ろ過の浄水場は、緩速ろ過浄水場の数の倍になりました。
ただ、今になって、緩速ろ過が見直されています。薬品を使う急速ろ過よりも、生物浄化法の方がコストもかからず、急速ろ過では処理しきれないクリプト原虫なども取り除けるし、さらに水がおいしいという評判も。
この緩速ろ過を見直してこられた第一人者、信州大学の中本信忠先生の研究によると、かつて緩速ろ過は、水がゆっくりと砂を通ることで、ろ過がすすむと考えられてきたものの(英名もSlow Sand Filterと名付けられた)、実は、細菌類は、砂そのものによってではなく、砂の表層の生物群(藻など)によって捕食分解されていたことが判明。結果、「緩速ろ過」というより、むしろ「生物浄化法」だ、と言われるようになりました。それに、生物群は砂の表面ほんの数㎝に生息するもの。そこを水が通過するスピードは速く、緩速ではなく、高速ろ過でもあるというのです。
さて、この緩速ろ過の話を聞き、ネットで調べていくと、どうも水の硬度を低減させる可能性も秘めていそうだということがわかりました。実際、硬度低減のために緩速ろ過を使う実験論文も発見。求める硬度の水になるには、ポンプで水を循環させ、何日かかかりそうですが、ただ可能性はゼロではなさそう。(細菌や、濁りの除去だけなら、循環させずとも1回のろ過で問題ないようです)
そんな中、中本先生からお誘いで、染谷浄水場の見学会があることを教えていただきました。
規模の大小に関わらず、誰にでもできる緩速ろ過。中本先生は、JICAと一緒になって、村の人に、装置の作り方を教え、世界の様々な場所で、緩速ろ過を広めてこられました。また、今回の見学会では、東京目黒の幼稚園の園庭で20年前から井戸水を緩速ろ過で浄水している園長先生もいらっしゃることを教えていただき、なにか知見を得られたらと、参加を決めた次第です。
紅葉日和の信州。染谷浄水場は、ただただシンプルでした。
千曲川と神川から水を取り、最初に砂や泥、ゴミを沈殿させる池があり、次に砂ろ過の大きな池に流し、その池の底からろ過水が出てきて貯水されていく。
高い位置から徐々に下に流れていくだけなので、電気も使わない。上田の町は、浄水場のすぐ下にあり、高低差を利用して配水されていく。大雨などで、取水した水の濁度が一定数を超えると、凝集剤という薬品を使いますが(急速濾過と一緒)、それがない限り、最後の塩素消毒(これは法律で決まっている)を除いて、薬品は使いません。
というか、本当は、塩素消毒もいらないほど。日本の水道法での濁度の基準は、2度以上とのことですが、なんとこの染谷浄水場のろ過後の濁度は、0.000(この目で、濁度系を見せていただきました)。急速濾過だと、取り除けない濁りもあり、基準が2度となっていますが、生物浄化法、恐るべし。というか、これが本来の自然の力ということなのでしょう。
尚、この染谷浄水場では「メロシラ」という珪藻類が自然に繁殖し、汚れや細菌類の分解浄化を行います。一方、沖縄の緩速ろ過浄水場では水温が高いため、メロシラは他の生物に食べられ、代わって繁殖し活躍するのは「みどり藻」という珪藻類とのこと。
ただそこにある自然が、水を浄化する。
それがうまくいかないときには、水深を浅くして光合成がきちんと行われるように設計しなおしたりする。自分の庭でも簡単にできる仕組みです。
そして、管理も簡単。砂ろ過面に泥が堆積した場合は、ときおりそれを掻き出すだけとのこと。水を少しずつ抜いていくと、砂表面の生物も砂の中に潜っていくので、砂の上の泥をうすく削ぐことができるというのです。
うーん、シンプルイズベスト!
中本先生によると「日本の多くの浄水場では、薬品を使うから、『触るな危険』のドクロマークがある。一方の下水処理場では、微生物に活躍してもらう必要があるので『生き物にやさしく』とある。飲み水の方にドクロマークって、逆ではないのか?」と。
そんなこんなで、楽しかった浄水場見学。ああ、早く緩速ろ過、やってみたい!家に浄水場を作りたい!と、ワクワクして上田をあとにしました。家ではバケツでできるそうなので、まずは小さく実験開始です!
100年前、大正時代に最初に作られた染谷浄水場のろ過池。今も現役。中本先生がこれから、池の中の砂をすくいます~。
浮いているのは汚れに見えますが、メロシラという珪藻類。勝手に繁殖してきて、これが緩速ろ過の中核的役割を担います。砂面からの水深は約1m。光合成ができるように、浅めがいいとのこと。底も見えます。
砂をすくいます。
ほら、砂でしょ。綺麗な砂。この砂は、ろ過池の保険とのこと。表面生物が分解ろ過しきれない泥や物質をとどめてくれる。だから、砂の厚さはそんなに必要ないとのこと。(すみません、染浄水場の砂の層の厚みを聞き逃しました)。家で作るときは、30㎝くらいでも平気そう。70㎝でも、1mでもいいけど。
中本先生から説明が続きます。風光明媚な場所。
メロシラ浮くろ過池を歩く多くの水道関係者の皆様。中本先生からのお声がけで、そこに混ぜていただいたというご縁。この中で、庭にこれを作りたいと思っている人は、どのくらいいるでしょうか(笑)
ふえすぎたメロシラは、この口から流れていきます。水は、この池の底の砂を通って、下から出ていきます。
ろ過された水の水質を計る部屋。
おお、濁度、0.000度!!濁りなし!(水道法の基準では濁度2度以上でOK)
ろ過された水は、この貯水タンクに貯めらます。
というわけで、時計を巻き戻し、見学会の冒頭に戻り、ご挨拶から。ろ過池がいっぱいある、染谷浄水場。
ここが取水場所。千曲川の支流、神川の水。ここに来る前に、小水力発電が設置されていて、電気も生み出してから染谷浄水場に入ってきます。
薬品混和池。川の水のにごりが一定以上あると、ここで凝集剤を入れ、うまく混ざるように、堰が入っています。もう、数か月?単位で凝集剤は入れていないとおっしゃっていたような。すみません、日数をメモしそびれ。
沈殿池。ゴミや泥を最初に沈める池。
そからパイプを通って、緩速ろ過池に水が入ります。
右のパイプから、緩速ろ過池に。そこで、水が藻をはじめとした微生物に分解され、沈んで、澄んだ飲み水となっていきます。
見学後は、会場で勉強会。これまで緩速ろ過は砂がろ過していると思われてきたけれど、砂の粒はこんなに大きい。
藻は、こんなに細かい繊維でできている。藻が汚れや細菌をキャッチして分解。