みんなの道!?鶴居村の森林基幹道を見てきました!
共著本『SDGsのすごい会社』の「長瀬土建」さんでご紹介した、岐阜県高山市の森林基幹道ができる一年ほど前、欧州の基幹道に習って、日本で最初に敷設された森の道、北海道鶴居村の森林基幹道を、昨年末訪ねました。
ドイツの森林コンサルタントの池田憲昭さんが昨年出版したご著書「多様性」には次のようにあります。(一部抜粋)
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(前略)北海道の鶴居村森林組合が唯一、提案された森林基幹道を、徹底して実践した。路網作設のエキスパートとして、北海道庁の小笠原昭二氏が、鶴居村の事業をサポートしていた。彼は、ヨーロッパ視察時に「まずは、試してみることが大切」というヨーロッパの森林官たちのエールを受けた。そして「あなたたちがいっていることは多分、正しいと思うから、信じてやってみますよ」といい、6月から10月という非常に短い期間で、およそ10kmの基幹道を、鶴居村の村有林に設計し、作設した。日本の制度の基準から外れた道の規格であったが、林野庁から特別許可が下りた。
これまでやったことがない新しいことであり、「類似」の道で、過去に失敗しているという事実もあったので、相当な勇気と根気が必要だったはずだ。釧路湿原の上流部、緩やかな丘陵地帯であるが、地質的に軟弱で、道づくりが難しい場所だった。そこに、ライン取りが素晴らしく、水のマネージメントをしっかりした、細部まで丁寧な施工がしてある美しい道が、2010年秋に完成していた。それを現地で見た時、森林官も私も、感極まって言葉を失くした。10年経った今でも、北海道の厳しい気象条件に問題なく耐えている。
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鶴居村の道が完成した直後、今度は、土木業として林業にはじめて参入を試みる長瀬土建の長瀬さんがドイツ欧州を視察。そしてやはりドイツの森づくりの哲学に心動かされます。しかし、周囲からは「鶴居村の道は、北海道という緩やかな地形の山だからできた」、「日本の他の山は急だし、雨量も違う」と言われます。
そこで長瀬さんは、試してみなきゃわからないと、前述の森林基幹道を高山に作られたわけですが、そんな話を聞くたびに、「北海道の地形ならでは」ってどんな地形だろうとずっと気になっていました。そして訪れた今回の機会。
事前に池田さんにご連絡すると、グーグルマップの衛星写真の森の部分を〇で囲って下さり、「キャンプ場の北側のこのあたり」と教えて下さいました。しかし、該当する道は公道ではないため、地図の〇印の中には道が描かれていません。不安の中進んでいくと、途中まで続いていた平坦な未舗装林道が枝分かれ。分岐した道には、中央が盛り上がった屋根型の基幹道が姿を現しました。
雪で覆われていましたが、あきらかにこれまでと違う道。雪により、素掘り側溝は見えませんでしたが、池田さんのセミナーで学び、高山で長瀬さんから案内いただいた水をコントロールする集水桝を確認したことで、ここが該当の道だと確信しました。確かに緩やかな「丘陵」と言える森。木々の隙間から、その向こう側に広がる田畑を見てとることができます。
12月の氷点下の昼下がり。
森の道は、美しい曲線を描きながら、静かに時を刻んでいました。
あ、また集水桝、あ、また集水桝、と、こんな寒い日に、森の道にはしゃぐのは私くらいでしょうか。
ちなみに、入口にあった「村民の森ウォーキングプロムナード」の看板では、ちょうど屋根型の道の手前で地図が切れていました。惜しい~。池田さんがおっしゃる森林基幹道とは、「誰もが入れて親しめる道」。林業の作業道にも、土場にも、生態系保全にも、国土保全にも、人々の憩いの場にもなる多機能な道です。池田さんが数年前にここを訪れたときには、屋根型の道に倒木が横たわっていて悲しかったと聞きました。隣接するキャンプ場は、夏場の2か月しかやっていません(東京だと信じられませんが、人が少ない北海道ではそういうものなのでしょうか)。当初手掛けた小笠原様は異動となり、自治体が主体となって補助金でできた道の課題なのかもしれません。長瀬さんのように熱い想いで、多機能な道をより積極的に活用しようという人の顔が見えてこないと残念がっていた池田さん。
でもね、動物たちの道にはなっていましたよ。
私をいざなうように、足跡がいっぱい! ずーっと続いているのはウサギでしょうか。そして大きめの足跡もありましたが、シカでしょうか。シカは天然更新林の天敵。だけどみんなと一緒に森に生きている感じがして、なんだかとっても嬉しくなりました。
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この2年間で、3つの森を育む道を見ることができました。
2つは、森林基幹道となる、長瀬さんの飛騨高山の道と、今回の鶴居村の道。
そして、もう一つは、高尾の森で、自伐型林業を営むずーやんのご案内で、一緒に道づくりのお手伝いをすることができた林業作業道。
ずーやんは、ワークショップを開催し、多くの人を森に案内、作業道づくりにも巻き込んでいます。長瀬さんは、産官学から本当に多くの視察やインターンシップを受け、森を案内しています。また、昨年は今、高山近くで計画している森のリトリート構想についても語って下さいました。鶴居村も、キャンプ場と隣接しているので、人がたくさんくる道になる可能性はいっぱい。
森林大国、日本。多くの人が森を日常に感じることができたら、林業だけでなく、それ以外の経済も、社会も、環境も、そして森と生きる人も、動物も、植物も、豊かに育まれる未来につながるはず。それには、人々が森に気軽に入れて、入った人の安全も環境も守れるような、それぞれの土地にあったみんなの道が、これからもどんどんと増えていくといいなぁと願っています。
(参考)